小簑菴支兀

『いははな集』


寛政11年(1799年)2月、去来の句碑を建立。小簑菴支兀筆。



岩ばなや爰にもひとり月の客

寛政12年(1800年)3月、記念集『いははな集』(支兀編)。重厚序。

藻の花やかづきの鳥のかざし物
   篁雨
  坂木
梅が香に闇ともしらず出にけり
   鉄舟
 稲荷山
名月や翦し吹矢の落どころ
   卜胤
伊那山寺
天河露と降て明し夜歟
   伯先

むしの音と成にも早き垣ね哉
   蕉雨
 軽井沢
花の戸に塵落し行つばめ哉
   何鳥
  飯能
霧降の雨を柳のすがた哉
   轍之
  毛呂
雨の芙蓉崩れむと花の粧ひし
   碩布
  本庄
鳶の子の鳶に成たるしげり哉
   雙烏
 八王子
燭の火に土産のみの虫啼ぬ哉
   喚之
 伊勢原
夕かほや蟇の行衛も花の陰
   叙来
  三浦
陽炎や墨の流れし塀の板
   呉雪

 列 国

   「君子居らば」ときこへしは、この碑
   の謂なる哉。
 信上田
面白ふあらし吹けり松の月
   雲帯

波こゆる網代に秋の入日哉
   如毛

駒ひきや埃をたつるみやこ入
   麦二

   塩尻てふ所なる風雅の人々、心をあ
   はせ、去来叟のいしぶみを建、それに
   手向の章投ぜよと、有けるまゝに、
  戸倉
岩が根の月を花の日奠る哉
   虎杖

しら菊やいはれもなくて花のよさ
   素檗
 善光寺
腹あしきものや夏野のたまり水
   柳荘
 八王子
鶯や人いましむる寅の刻
   星布
  本庄
はしとはしかさねて処るか闇の雁
   長翠
  東都
水鳥を見て見返れば枯尾ばな
  みち彦

名月やきのふの雨のひとむかし
   春蟻

利根の瀬にまかれて啼や蘆雀
   帰童

さみだれのまゝおとゝひに似たりけり
   成美
 相大磯
満月の入てほどへし雪見かな
   葛三
  飯田
鳩のよるひと木を果にゆふ木立
   春鴻
  依智
人声や植たる小田に植ぬ小田
   丈水
 甲藤田
いかめしき月夜にしたりほとゝぎす
  可都里

   月前の述懐の心を
  川田
影かゞむ我身うとましけふの月
   敲氷
 奥仙台
驚やころもにとまる秋の蝶
   白居
  白石
みじか夜の満月かゝる端山かな
   乙二
  元宮
人の扇ゆかしと思ふ折もあり
   冥々
  南部
就中雨に長者の柳かな
   平角

冬柳鳥ばさばさと居るなり
   一草

花散る日水は弥々はしる也
   素郷
 羽秋田
きりぎりす風ふきかはる夜隈かな
   五明
  賀州
雁がねの風にかゝらぬ声もなし
   斗入

松山や嵐せぬ日も秋のこゑ
   馬仏
 参岡崎
山里や烟る中より秋の月
   卓池
尾名古屋
とかうして西にあるなり朧月
   羅城

あふかたの人は友なり秋の月
   岳輅

穐の夜は月に成さへあはれなり
   士朗
  伊予
どこまでも家の多さよ冬木立
   樗堂
  豊後
いとし子よ山吹折るな水近し
   菊男
  大坂
二千里の外は唐じやぞほとゝぎす
  大江丸
  近江
酒くさき衣干るあり帰り花
  しう女
  
さびしさは常に成けりかむこ鳥
   閑叟

穐の風ふしみが菊を咲せけり
   月居
 義仲寺
炭竈の匂ひもすなり走り雨
   祐昌

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