餞 別
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草の實の袖にとりつく別哉
| 凉菟
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跡に居る我を山田の案山子哉
| 支考
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京
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ゆり返す風を離るゝ薄かな
| 十丈
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うちひらいたる磯端の月
| 去來
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菊月の比越の十丈はしめて尋られしか、ほとなき別にのそみて
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菊の香や櫻は文て申へし
| 風國
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空に心の秋更る月
| 十丈
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木曾塚
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越の十丈吟士、此秋伊勢詣ての道すから、山吟野咏文嚢に滿むとす。就中湖上の無名庵を尋て、蕉翁の古墳を弔ふ餘哀いまた盡すして、予か草菴に杖をひかる。柴の扉は粟津野の秋風に霜枯て、一夜の草の枕何おもひ出ならんとも覺えす。殊更發句せよと望まるゝに、せん方なき壁に片より、柱に背中をせめて、やうやうおもひ付る事あり。翁往昔梺の庵に寐覺して、此岡山の鹿追の声をはかなみ、何とそ句なるへき景情、いつれはとねらひ暮されし夢の跡なから、今又呼やまぬ声々を、むかしかたりのひとつ趣向の片はしにもと筆を馳す。
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鹿小屋の声はふもとそ庵の客
| 丈艸
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やレ月代のわたる穂すゝき
| 十丈
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十丈の何かし、湖上の吟詠にしはらく一夜の情を契て
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蕎麥の華見するはかりそ庵の客
| 正秀
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彦 根
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越の十丈、みつから風雅の車をおして、千山万水の間にあそふ。今日たまたま草廬を訪はる。殊に重陽の前日成りしか
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松茸に八日の宿は菊もなし
| 許六
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笠ぬき捨し門の秋風
| 十丈
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金 澤
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旅行の十丈つゝかなくてこゝに歸
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られしに、都の便もなつかしく、
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一夜此宿に物語して
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風雅には痩て歸りぬ顔の朝
| 北枝
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袂の霜を振ふ菊の香
| 十丈
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山中温泉に大聖寺の人々とあそひ
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て、桃妖亭一會
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何に湯のにほひをしめぬ藤の花
| 十丈
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見かへす中に雲に入る鳥
| 里揚
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金屏を雛の名残に立かへて
| 桃妖
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誰やらしらす人の來て居る
| 關雪
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射 水 川 下
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春
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水壷にうつるや花の人出入
| 丈草
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小袖ほす尼なつかしや窓の花
| 去來
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水やそれ空や水なる比良の花
| 支考
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志賀の花彦根をかけて膳所の城
| 許六
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| 筑前
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藪ひとつ蹴れはそこらの花見かな
| 沙明
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志賀越に追剥せはや花の時
| 北枝
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三日月のおほろや花のあいしらひ
| 十丈
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多武の峰にて
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咲はこそ増賀の花も山さくら
| 句空
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一刷の雲や入日の山さくら
| 李由
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黄鳥の來て染ぬらん春の餅
| 嵐雪
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鶯の柳にそまる小雨かな
| 浪化
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| 豊後
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鶯や寺のはさかる市の中
| 野紅
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| 新城
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うくひすの野梅ははやしさんさ笠
| 白雪
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若菜摘足袋の白さよ塗木履
| 支考
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山寺も雪間に出るや若菜摘
| 風國
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羽織着た祢宜の指圖や梅の垣
| 素覧
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笹垣やまめな日用かむめの花
| 牧童
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蓑の毛に雪のけしきや梅の花
| 浪化
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| 新城
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眞直に雨の降來る柳かな
| 桃後
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四日へもやらぬ三日の朧月
| 林紅
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| 備中
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鉢いるゝ家は犬ありもゝの花
| 除風
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山中の温泉より那谷にまうてける
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か、小松より行程二里はかり、麓
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の人里も那谷村とかいふなる。そ
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れより入て圓通大師の御堂を拜む
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に、諸堂は皆國君の作りみかゝせ
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給ひて、莊嚴の美を盡させたまふ。
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山の姿云はかりなし。百尺の石を
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疊むて削出すかことく、峨峨とし
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てかつ玲瓏たり。此那谷の石のた
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ゝすまゐ、都の石山よりもまされ
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りと云傳へしか、古翁一とせ此山
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に詣給ひしに、石山の石より白し
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秋の風といふ句を、今猶おもひ出
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られて
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其石の白みに馴て躑躅かな
| 十丈
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餞別
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見送りの先に立けりつくつくし
| 丈艸
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藤の花あふのく男あほうらし
| 秋之坊
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山吹に金ひしからぬう治もなし
| 支考
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夏
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松風にほそみの出たる卯月かな
| 浪化
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| 山中
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下冷も折から寐よきあやめかな
| 自笑
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| 豊後
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蓮を見て大竹くゝる螢かな
| 倫女
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若竹に鳥の踏はる枝もなし
| 雲鈴
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| 備前
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若竹や衣踏洗ふいさら水
| 兀峰
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つふぬれや五月男の頬つゝみ
| 智月
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| 井波
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五月雨や馬屋はあれと茶の匂
| 路庭
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姑女の顔やたとへは入梅の晴
| 木因
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葛城や松のはえ込雲の峰
| 桃妖
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凉しさよ草の葉動く日の曇
| 露川
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| 新城
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よき月の隱れて居たる青田かな
| 桃先
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その射水川は萬葉の姿に流て、む
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かしの姿もなつかしけれは、此度
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集の名となすへきよし、文通にき
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こへけれは
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集の名の寐覺も凉し射水川
| 浪化
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秋
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秋立といへはやけさは瓜の老
| 浪化
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瓜畠に秋や來かゝる日の色ミ
| 諷竹
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蘭の香に嚏まつらん星の妻
| 其角
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鵲や尾上の杉を橋はしら
| 浪化
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みそ萩や水の重みの佛の名
| 土芳
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長崎にて
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見し人も孫子になりて墓参
| 去來
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駒の口ひかへひかへて鶉かな
| 浪化
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はつ雁や能登の出張の帆懸舟
| 助叟
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汐かせにもめても蕎麥の白さかな
| 浪化
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靜なる鷺にも恥よ稲すゝめ
| 許六
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冬
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野明別墅にて
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柴の戸や夜の間に我を雪の客
| 丈草
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饂飩打家や師走の梅の花
| 朱拙
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塗物にほこりもすこし年の暮
| 野坡
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雲井にも菜食の嗅や年忘
| 浪化
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