遠山の雨雲きれて水札の鳴
| 護物
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貞秀を尋るに留守のよし。こよひ深谷に泊る。水鶏は夜のみ鳴鳥にあらず、暁過てまた頻りになく。
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菜種殻踏ばかくるゝ水鶏かな
| 一肖
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神奈川をわたる。
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翡翠の遊ぶ草なき早瀬哉 桐堂
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新町吉井氏、田喜のあるじをとゞめて、
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人並に竹うゑる日を訪れけり
| 川二
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折にふれて雨降過ぬ。
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一雨晴竹うゑん空の気相かな
| 護物
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柿の薹(へた)何にせうとて拾ふ子ぞ
| 護物
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碓氷嶺
鶯、ほとゝぎすしばしば鳴、山桑と云る白き花、橡の木、藤の花みな盛也。
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夏山の四五丁つゞく荷牛哉
| ゝ
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権現の社頭
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宮ばしら五月の雲の登りけり
| 桐堂
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午の刻過るころ峠を下りて、軽井沢の小まつ屋に草鞋をとく。
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山ぐせのあかるく成てさみだるゝ
| 亀蓬
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鹿の子の寝た跡臭し門の闇
| 玉蓬
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軽井沢をいでゝ雲場が原、沓かけ、追分より三ッ家(谷)の濁り川は不断赤く流れて月の半はかならずいろのかはると云り。此嶽の血の池と云ところより出る水なりとぞ。
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蚋(ぶゆ)飛や草さへにえぬ濁り川
| ゝ
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馬瀬口はもと柵口と書て塩野の牧の牧やらいなるべし。
これより畠山一里ばかり入て八満の里にいたり水篶家を訪ふ。あろじ葛古は十とせまり先に睦みある人なりければ、うちとけてしばし旅心をわする。
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日々にうちつどへる人々は、
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青空はみせても梅雨の五六日
| 葛古
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卯花の明りをめぐるながれかな
| 魯恭
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松原へかゝりて夜のあつさ哉
| 春甫
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露谷が江戸便に聞ふ(う)るくさぐさ。水篶の家の日記もふたツ三ツ。
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ひる顔の側に風もつ薄かな
| 鶯笠
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旅人のはやくも見知る乙鳥哉
| 夢南
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人ほどに苦労はみえず帰り花
| 曰人
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草臥るものやけし持道すがら
| 蕉雨
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よく文にかゝれる木なり梅[の]花
| 多代女
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久かたやきかぬとしなき蜀魂
| 雪雄
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一人と帳面につく夜寒哉
| 一茶
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山かぜの紛れて吹や春の風
| 碓嶺
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おく霜の嵐は草にかくれけり
| 雉啄
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鷺を見て寒う成たる袷哉
| 雨塘
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雨二日夢もひまなし雁の行
| 菊塢
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卯の花やすこしかくるゝ家の貧
| 八朗
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夏らしき夏ともなしや半ばたつ
| 応々尼
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在明の闇をまとめる水鶏哉
| 可麿
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きのふにも降べきものを春の雨
| 若人
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