井上重厚

『はすのくき』(三白編)


寛政3年(1791年)7月12日、芭蕉百回忌に盛岡の志雪窓三白が上梓。自序。

我師前落柿舎、ふたゝびみちのく南部に杖を曳たまふ時、人々こそつて芭蕉百回忌俳諧の導師たらむことをねかふ。ゆゑは江州粟津本廟にはとほくへたゝりて、たれかれあしとゝかす。爰に古人麻斤坊か建おきたる古池やかはす墳あるを幸と、今日たゝいまその碑前におゐて、懐舊の一會を勤ること、誠に風雅の冥加也。

志雪窓三白 謹書

   懐舊之俳諧

おきな忌や露一巻を千部經
   三白

   ひかりまされる百年の月
   代美



   妻におくれしとき

あやめふく軒や葱の魂まつり
   平角

   重厚入道に隨身して蝦
   夷まつ前にわたるとき

縦横に草鞋ふみけり露時雨
   夜來

寢かへりに奈良の鐘きく二月哉
   英里

   既に九年の春秋を經てふた
   たひ岩手の關をこゆる

鑪山や五月五日の草ふまん
   重厚
  花巻
如月をたしかに見たり二日月
   鷄路
  毛馬内
うめさきて寺に米搗くおとこかな
   里夕

   諸國諸音
  江戸
春の水爰とむれははやき哉
   長翠

つま鴈のさそへるこゑの礒のやみ
   春鴻

おろおろと山鳥なきて梅かちる
   柴居
      (※「曷」+「鳥」)
浦の松はるの山よりみゆるかな
   葛三

名月やこゝろとむれは波のうへ
   烏明

あさなあさな軒端に近し彌生山
   宗讃

行年や水に影守器もの
   巣兆

うめか香を袂にいれて空ね哉
   成美
  鹽竈
目をとちて山さためけり春の海
   文之
  白石
斧の柄やかつきなれたる花の中
   乙二
  秋田
日は花の中より暮るゝ木槿哉
   五明
  甲陽
門松や鶴背の關の朝ほらけ
   石芽
  大津
あつき日や袈裟ぬふ尼の目の疎き
   沂風
  大坂
澁柿に今日も暮行く鴉かな
   二柳
  
もの知れる人にもうとし冬こもり
   瓦金

隣ありて憂を求るきぬた哉
   只言

烏帽子きて若菜つむ野や畫の姿
   蝶夢

   天の橋立

はし立や守神ならは波こえん
   蘭更

   武藏玉川

玉川のなみかけてけり衣かえ
   曉臺

   左の俳諧しりへにものして

   衆人みな醉り我ひとり醒た
   りと鼻の下うこめくも腹ふ
   くるゝわさなり

名月や浮世にくもる人の影
   重厚

   水不言こゝろすむ秋
   其黒

冬瓜のうすくれないに蔓伸て
   三白



   寛政三辛亥天七月十二日

井上重厚に戻る