堀部魯九
『春鹿集』(魯九編)
宝永ふたつのとしの二月のはしめに琶水の末 松本の里に立越てしハらく誹諧する事 侍しに其わたりの人々予カかねて行脚の 志ある事をしりて序こそよけれとすゝめ 立ける程にやかておもひ立てまつ翁塚 經つかに詣て暇乞しつ餞のほくなと有 けるをもふところにおしいれてハ月長月 の比にハといひて立いてぬころハ弥生の上の 弓はり月の空なりけむかし |
角おとすかてむてしかの旅なかな | 孤耕庵 | 魯九 |
近江松本の餞別 |
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交を水にまかせて柳哉 | 水田利左ヱ門 | 正秀 |
京 怒風亭にて |
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椀ならすうらかおも屋か花曇 | 魯九 |
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津國 難波 |
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美濃の国の僧魯九西国のかた見んよしして尋られ |
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しに予も一度通りたる所もあれハ有増教えぬ |
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実雪のふる日ハ寒くこそあれと聞へ侍るとをり |
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西海の浦つたひ衣ハ汐風に吹ちゝめられ笠は |
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背にはつれそほふる雨に日もくれかゝりてしらぬ道 |
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をとをとをとあゆミゆかむさまもおもひやられて |
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道もよしかつえしうらハ若和布時 | 竹田弥助 | 野坡 |
雪そらにくもる歟梨の花白し | 塩江長兵衛 | 車庸 |
柳よりあまりて春の夜寒かな | 南堀江 | 諷竹 |
備前 片上兀峯亭を尋て |
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人添てもらハむ宿の月朧 | 魯九 |
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こりやしたりことハり過つ花の滝 | 桜井武右ヱ門 | 兀峯 |
何なりとさかして行む櫻かり | 同 息 | 元周 |
おなし国の岡山に入とて |
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笠の端に城まつ白し花の雲 | 魯九 |
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備中 吉備兩社奉納 |
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花に猶つり合もよし吉備津山 | 魯九 |
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蒿堆に埋れし軒や梅の花 | 藤井齋宮 | 高吉 |
やま吹やふしきに是は道かない | 南瓜庵 | 除風 |
安藝 嚴島奉納 |
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海山の波や若葉のいつくしま | 魯九 |
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文司赤間の平家蟹を我国の支考は |
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秋の野ゝ花とも咲かて平家蟹とうたひ |
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伊勢の 凉兎は生海鼠ともならて |
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さすかに平家なりと吟じぬ |
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予にも此蟹をみせて |
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ホクせよとありしに |
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夏痩の角(カト)もつふさす平家蟹 | 魯九 |
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豊前 大橋 元翠亭 |
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麦かちの哥に遊ふやすたれ越 | 魯九 |
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柳甫亭 |
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鷄も日和まちてや桐の花 | 仝 |
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麦青く卯の花白し段の浦 | 苅田や加助 | 元翠 |
手枕に寐られぬ空や麦の秋 | 嶋や市右ヱ門 | 柳甫 |
仝 宇佐奉納 |
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ふり向ハ猶有かたし春風 | 魯九 |
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かうて居て水鶏聞ハや寄藻川 | 仝 |
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いちこ守る人にとハはや綾瀬川 | 仝 |
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仝 日田野紅亭 |
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ものゝ葉の陰もうつるや夏座敷 | 魯九 |
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魚鳥の息を立はや田は植る | 坂本半山 | 朱拙 |
山陰をくつていてたる鵜の火哉 | 長野三良右ヱ門 | 野紅 |
一勢をゆられて休む鵜の火哉 | 同つま | りん |
肥後 熊本 助成寺芭蕉塚にて |
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朝露を塚にふるうや蝉の声 | 魯九 |
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濃州魯九法師西海の浪に漂泊し水無月の |
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はしめ肥陽熊本にいたる此所より長崎へとこゝろ |
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さししハらく乙明輕芦のもとに遊ひ給へり然に |
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道すからの暑濕にやあてられけん疝痢度々 |
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にしてなやめる事大方ならすされハいつこも |
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同し旅寐なからすこしハまさるゝ方もと予 |
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茅屋に病床をうつし良醫有住氏祐宅山田 |
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元好猿渡意朴なんとの藥鍼の術をつくされけるに |
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漸廿日はかりにしるしありて心よく見え侍れハ |
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舟場まて実足輕し秋の道 | 助成寺 | 使帆 |
松原や鳥居をはさむ浦の秋 | 訪諏馬場 | 如叟 |
(ママ) |
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山家に魯九法師をいさなひたるに時代 |
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めきたるうつハものにものを入てもて |
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なすこれなんそ蟹のはなしの |
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兵粮なり |
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立臼は二度の榮花やきひ團子 | 西田重良右ヱ門 | 宇鹿 |
膝立て或はなくや鹿の聲 | 水野門右ヱ門 | 紗柳 |
筑後 久留米 |
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ひくらしの鳴しつめたる暑哉 | 上野宗外 | 晦朔 |
椿ほと思ハれに行白木槿 | 井筒屋安右ヱ門 | 佐越 |
筑前 宰府天神宮にて |
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むら紅葉檜皮をハしる夕日影 | 魯九 |
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仝 博多 ふくおか |
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長崎の人々に便りせられて未雷一定を |
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とふ折ふし留守なり此外又とふへき人を持す |
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尋人のなひ迷ひ子や秋の空 | 魯九 |
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はこさき枯野つかに詣てゝ |
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さひしさを取ひろけたるすゝき哉 | 仝 |
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すらすらと秋をはこふや蔦楓 | 原田氏 | 一定 |
踏かゝる水のにこりやひろかしハ | 十里庵 | 哺川 |
目まきれになるや花咲草の原 | 鍬屋喜右ヱ門 | 未雷 |
仝 黒崎 水颯亭 |
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カイトツテ目につく物や浦の月 | 魯九 |
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西瓜喰ふ空や今宵の天の川 | 関屋甚左ヱ門 | 沙明 |
鵙鳴や雲陰さむき穐の原 | 久芳忠左ヱ門 | 水颯 |
平家の人々の墓所に詣てゝ |
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御一門昔となたの花すゝき | 魯九 |
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近江 膳所 |
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名月や粟にあきたる鶴の友 | 濱田道夕 | 洒堂 |
経塚にて |
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手向はや麓の沢の早稲の風 | 茶や与二兵へ | 昌房 |
美濃 大垣 |
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何かし魯九のぬしことし風雅の嶋めくりして |
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西海より歸りにその嶋ふりをかたる五文字 |
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の横にハらはふ島あり或ハ一句二十文字に |
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あまりてぬらり姿ハ彼せい高と聞へし |
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嶋ふりなとハしハしにハ異端の風躰も殘 |
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しとなん十か八つの嶋ハ正風の行き渡て |
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なと一夜かたりて草室の月にうそふく陀 |
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袋の風流に箱崎の松の葉をひろひとりしを |
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我白櫻下の家つとにのこすしらす遠津國 |
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の名物を此里の雪に詠むハ是こそ風雅の |
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活たるならめと花ほうるみとりなといふ菓子 |
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をうちあけてかの二葉をのせけふの初 |
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雪をつもらせこゝろさしの風流を |
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おきなふ |
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箱崎の松に雪見んすゝり蓋 | 谷九太夫 | 木因 |
講の座や寄合ものハゑひす顔 | 此筋 |
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村時雨中に立たる虹ひとつ | 千川 |
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暖とやな武家のいの子の大根引 | 文鳥 |
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おらか世そ雪霜ハ來す麦田切 | 宮崎氏 | 荊口 |
尻ためて居らぬ人あり鴨の声 | 大田弥平次 | 巴静 |
我庵ハ因幡やまに隣て松風 |
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常に耳にたのし |
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世の中は喰ふて延して火燵猫 | 艸々庵 | 已白 |
としの市手柄はなしも半ハかな | 宮部弥三良 | 低耳 |
めつらしからすめつらしう |
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おもひまいらせ候雪中の芭蕉と |
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まことにまことに御無事の御事と |
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御休候うへ笑ひあひ可申候かしく |
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人ハしらし実此道理ぬくめ鳥 | 弁慶庵 | いせん |
諸国文通之部 伊勢 |
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捨られて居るか山路のかんこ鳥 | 團友齋 | 凉菟 |
くわいと鳴別れも有や猫の戀 | 中川喜右ヱ門 | 乙由 |
青雲にたくりつきたる雲雀哉 | 桂藏庵 | 燕説 |
三河 |
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壱兩の金かうはしき牡丹哉 | 太田金左ヱ門 | 白雪 |
せき一つせひてもきへす夜半の霜 | 同 又四良 | 桃先 |
加州 |
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囀りに手をはなれたる枕かな | トギヤ源四良 | 北枝 |
うくひすに扇つかひや小式臺 | トギヤ彦三良 | 牧童 |
夕暮や浮世の空のいかのほり | 寂玄 | 秋之坊 |
神法樂 |
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梅か香や袖かひてミる神子の舞 | 鶴や | 句空 |
曙をかゝえて菊の匂ひ哉 | 和泉や又兵へ | 桃妖 |
月影の白髭(ママ)に寒シ菊作り | いつミや陰居 | 自笑 |
越中 |
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酒呑と云れて見たしけふの菊 | ノミヤ宗左ヱ門 | 路健 |
祖父婆もともに白髭(ママ)や虫の声 | 亡 人 | 浪化 |
越前 |
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丸盆に月や西瓜のこくち切 | フ ク イ | 韋水 |
行秋をぐちに招くや花すゝき | 上坂甚兵へ | 嵐技 |