堀部魯九

『春鹿集』(魯九編)


魯九は美濃蜂屋の人。別号孤耕庵。

宝永2年(1705年)3月、魯九は長崎に旅立つ。

宝永ふたつのとしの二月のはしめに琶水の末
松本の里に立越てしハらく誹諧する事
侍しに其わたりの人々予カかねて行脚の
志ある事をしりて序こそよけれとすゝめ
立ける程にやかておもひ立てまつ翁塚
經つかに詣て暇乞しつ餞のほくなと有
けるをもふところにおしいれてハ月長月
の比にハといひて立いてぬころハ弥生の上の
弓はり月の空なりけむかし

角おとすかてむてしかの旅なかな
 孤耕庵
 魯九

   近江松本の餞別

交を水にまかせて柳哉
 水田利左ヱ門
 正秀



   京 怒風亭にて

椀ならすうらかおも屋か花曇
 魯九



   津國 難波

  美濃の国の僧魯九西国のかた見んよしして尋られ
  しにも一度通りたる所もあれハ有増教えぬ
  実雪のふる日ハ寒くこそあれと聞へ侍るとをり
  西海の浦つたひ衣ハ汐風に吹ちゝめられ笠は
  背にはつれそほふる雨に日もくれかゝりてしらぬ道
  をとをとをとあゆミゆかむさまもおもひやられて

道もよしかつえしうらハ若和布時
 竹田弥助
 野坡

雪そらにくもる歟梨の花白し
 塩江長兵衛
 車庸

柳よりあまりて春の夜寒かな
 南堀江
 諷竹



   備前 片上兀峯亭を尋て

人添てもらハむ宿の月朧
 魯九

こりやしたりことハり過つ花の滝
 桜井武右ヱ門
 兀峯

何なりとさかして行む櫻かり
 同   息
 元周

       おなし国の岡山に入とて

笠の端に城まつ白し花の雲
 魯九



   備中 吉備兩社奉納

花に猶つり合もよし吉備津山
 魯九

蒿堆に埋れし軒や梅の花
 藤井齋宮
 高吉

やま吹やふしきに是は道かない
 南瓜庵
 除風



   安藝 嚴島奉納

海山の波や若葉のいつくしま
 魯九



  文司赤間の平家蟹を我国の支考
  秋の野ゝ花とも咲かて平家蟹とうたひ
  伊勢の 凉兎は生海鼠ともならて
  さすかに平家なりと吟じぬ
  予にも此蟹をみせて
  ホクせよとありしに

夏痩の角(カト)もつふさす平家蟹
 魯九



   豊前 大橋 元翠

麦かちの哥に遊ふやすたれ越
 魯九

       柳甫亭

鷄も日和まちてや桐の花
 仝

麦青く卯の花白し段の浦
 苅田や加助
 元翠

手枕に寐られぬ空や麦の秋
 嶋や市右ヱ門
 柳甫

   仝 宇佐奉納

ふり向ハ猶有かたし春風
 魯九

かうて居て水鶏聞ハや寄藻川
 仝

いちこ守る人にとハはや綾瀬川
 仝

   仝 日田野紅亭

ものゝ葉の陰もうつるや夏座敷
 魯九

魚鳥の息を立はや田は植る
 坂本半山
 朱拙

山陰をくつていてたる鵜の火哉
 長野三良右ヱ門
 野紅

一勢をゆられて休む鵜の火哉
    同つま
 りん



   肥後 熊本 助成寺芭蕉塚にて

朝露を塚にふるうや蝉の声
 魯九

  濃州魯九法師西海の浪に漂泊し水無月の
  はしめ肥陽熊本にいたる此所より長崎へとこゝろ
  さししハらく乙明輕芦のもとに遊ひ給へり然に
  道すからの暑濕にやあてられけん疝痢度々
  にしてなやめる事大方ならすされハいつこも
  同し旅寐なからすこしハまさるゝ方もと
  茅屋に病床をうつし良醫有住氏祐宅山田
  元好猿渡意朴なんとの藥鍼の術をつくされけるに
  漸廿日はかりにしるしありて心よく見え侍れハ

舟場まて実足輕し秋の道
 助成寺
 使帆

松原や鳥居をはさむ浦の秋
 訪諏馬場
 如叟
 (ママ)
  山家に魯九法師をいさなひたるに時代
  めきたるうつハものにものを入てもて
  なすこれなんそ蟹のはなしの
  兵粮なり

立臼は二度の榮花やきひ團子
 西田重良右ヱ門
 宇鹿

膝立て或はなくや鹿の聲
 水野門右ヱ門
 紗柳



   筑後 久留米

ひくらしの鳴しつめたる暑哉
 上野宗外
 晦朔

椿ほと思ハれに行白木槿
 井筒屋安右ヱ門
 佐越



   筑前 宰府天神宮にて

むら紅葉檜皮をハしる夕日影
 魯九

   仝 博多 ふくおか

  長崎の人々に便りせられて未雷一定を
  とふ折ふし留守なり此外又とふへき人を持す

尋人のなひ迷ひ子や秋の空
 魯九

   はこさき枯野つかに詣てゝ

さひしさを取ひろけたるすゝき哉
 仝

すらすらと秋をはこふや蔦楓
 原田氏
 一定

踏かゝる水のにこりやひろかしハ
 十里庵
 哺川

目まきれになるや花咲草の原
 鍬屋喜右ヱ門
 未雷

   仝 黒崎 水颯亭

カイトツテ目につく物や浦の月
 魯九

西瓜喰ふ空や今宵の天の川
 関屋甚左ヱ門
 沙明

鵙鳴や雲陰さむき穐の原
 久芳忠左ヱ門
 水颯



   平家の人々の墓所に詣てゝ

御一門昔となたの花すゝき
 魯九



   近江 膳所

名月や粟にあきたる鶴の友
 濱田道夕
 洒堂

      経塚にて

手向はや麓の沢の早稲の風
 茶や与二兵へ
 昌房



   美濃 大垣

  何かし魯九のぬしことし風雅の嶋めくりして
  西海より歸りにその嶋ふりをかたる五文字
  の横にハらはふ島あり或ハ一句二十文字に
  あまりてぬらり姿ハ彼せい高と聞へし
  嶋ふりなとハしハしにハ異端の風躰も殘
  しとなん十か八つの嶋ハ正風の行き渡て
  なと一夜かたりて草室の月にうそふく陀
  袋の風流に箱崎の松の葉をひろひとりしを
  我白櫻下の家つとにのこすしらす遠津國
  の名物を此里の雪に詠むハ是こそ風雅の
  活たるならめと花ほうるみとりなといふ菓子
  をうちあけてかの二葉をのせけふの初
  雪をつもらせこゝろさしの風流を
  おきなふ

箱崎の松に雪見んすゝり蓋
 谷九太夫
 木因

講の座や寄合ものハゑひす顔
 此筋

村時雨中に立たる虹ひとつ
 千川

暖とやな武家のいの子の大根引
 文鳥

おらか世そ雪霜ハ來す麦田切
 宮崎氏
 荊口

尻ためて居らぬ人あり鴨の声
 大田弥平次
 巴静

  我庵ハ因幡やまに隣て松風
  常に耳にたのし

世の中は喰ふて延して火燵猫
 艸々庵
 已白

としの市手柄はなしも半ハかな
 宮部弥三良
 低耳

  めつらしからすめつらしう
  おもひまいらせ候雪中の芭蕉と
  まことにまことに御無事の御事と
  御休候うへ笑ひあひ可申候かしく

人ハしらし実此道理ぬくめ鳥
 弁慶庵
いせん



   諸国文通之部 伊勢

捨られて居るか山路のかんこ鳥
 團友齋
 凉菟

くわいと鳴別れも有や猫の戀
 中川喜右ヱ門
 乙由

青雲にたくりつきたる雲雀哉
 桂藏庵
 燕説

   三河

壱兩の金かうはしき牡丹哉
 太田金左ヱ門
 白雪

せき一つせひてもきへす夜半の霜
 同   又四良
 桃先

   加州

囀りに手をはなれたる枕かな
 トギヤ源四良
 北枝

うくひすに扇つかひや小式臺
 トギヤ彦三良
 牧童

夕暮や浮世の空のいかのほり
 寂玄
秋之坊

   神法樂

梅か香や袖かひてミる神子の舞
 鶴や
 句空

曙をかゝえて菊の匂ひ哉
 和泉や又兵へ
 桃妖

月影の白髭(ママ)に寒シ菊作り
 いつミや陰居
 自笑

   越中

酒呑と云れて見たしけふの菊
 ノミヤ宗左ヱ門
 路健

祖父婆もともに白髭(ママ)や虫の声
   亡  人
 浪化

   越前

丸盆に月や西瓜のこくち切
 フ  ク  イ
 韋水

行秋をぐちに招くや花すゝき
 上坂甚兵へ
 嵐技

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