富処西馬
『花の雲』
俳聖芭蕉翁の百五十回の遠忌に当れるにあひて、惺庵西馬兼て追福をいとなむに、社盟数十輩と議り、清水寺内に地を卜して一冢を築けり、碑面篆額の贈号は、故二条相公の霊屋に賜ふ所なり、今四山これに筆を抹、また高韻を出るものハ菱湖也、遙に聞、清水寺は上毛第一観音の霊場にして、洛の清水に景趣等しきと、言句も亦彼を取てこゝに移す、相当れるなるへくして、此道に遊ふの因をもて一条□来由を祭主の為にしるす 維時天保十三年竜集壬寅三月
五品 多々良大内潤長 |
茲に亦上毛高崎の府、惺菴西馬ありて祭をまうく、其礼や厚々淳々、地を卜して恩報の碑を築き、払子を振て霊弔をさしまねく、同志雲の如く集り、香名しくれて叢根林葉をそゝく、風吟夕ニ一集札をなすといふ、こゝにおいてか一条をもとむ、よつて鳳朗腐毫を採て是か為に記誌す |
天保十三歳季春日 天保壬寅三月二十八日於上毛清水寺興行 一百五十回忌追福正式俳諧百韻 |
観音の甍みやりつ花の雲 | 祖翁 |
残るかたなき春の日のかけ | 西馬 |
碑前手向 | |
はせを忌のひとふしなれや花のかけ | 碩布 |
めくりあひむかしのけふの花の雲 | 逸渕 |
信濃 |
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花に只手を合はせたるはかりなり | 葛古 |
武蔵 |
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けふの我こゝろを啼や呼子鳥 | 寄三 |
面影にたつや霞のかれ尾花 | 青荷 |
上毛 |
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行春やこゝろを洗ふ椎の露 | 竹煙 |
遠く見たほとにハもえぬ木の芽哉 | 歩丈 |
百五十年同昔日 | |
紅々緑々祖翁真 | |
柳さへ花さへさそふ供養かな | 西馬 |
武蔵 |
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ある事のなくて過たし花に風 | 南々 |
耻かしや花に来てさへ寐わすれし | 五渡 |
寐ところのかはるも嬉しはるの宵 | 市月 |
春之部 | |
恵方ハと問婆とひとひよしの山 | 鳳郎 |
目に見えて寒たけ立し柳かな | 見外 |
夏之部 | |
卯 月 |
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江戸 |
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鳴といふ木につひきかすほとゝきす | 松什 |
散を見てからすの逃る牡丹かな | 万古 |
秋之部 | |
京 |
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朝かほにあらく当るや稲の風 | 梅室 |
一口に三夜をほめけり盆の月 | 而后 |
冬之部 | |
神無月 |
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江戸 |
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はいはいと出るや小春の鱗雲 | 護物 |