長野野紅

『小柑子』(野紅撰)

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 元禄15年(1702年)11月末、志太野坡は豊後の日田に吟遊して、長野野紅亭に逗留。

 元禄16年(1703年)、『小柑子』(野紅撰)刊。

誹諧小柑子 上巻
  野坡
三つ七つなゝつは赤し小柑子

 梅とけかゝり椿ふくるゝ
   りん

山雀か出習ふ里はしつかにて
   野紅


  りん
両方の耳て物きくとしのくれ

 綿入れかゝる座敷とらるゝ
   野坡

世話に成兄も位のみしかくて
   朱拙

 かすかな月に夜道うつなり
   紫道

秋はたゝ正圖もなしに叩く音
   李千

 松茸時にはやる堅文
   りん



鶯のこらえかねてや年の内
   りん

分別の柱立けりとしのくれ
   野紅

   ふんこの山中に老の春をむかえ侍りて

沙汰もせす此山中の歳ひとつ
   野坡

   常に松杉の中にすみ侍りて

ほをつらに直すや門の松かさり
   李千

   七日はとしとしの例にまかせて李千亭に各つとひ
   侍りて

月雪の空をとかめて若菜哉
   朱拙

誹諧小柑子 下巻

   春之部

水付し梅や齡ひの長からん
   杉風

高汐や海より暮し梅の花
   去來

梅咲や天窓の上の人通り
   野坡

閑かなる上にしつかや梅の華
   惟然
  大坂
中立や路次てふらるゝ梅の笠
   諷竹
  肥後
むめか香や座には出家の高噺
   使帆

酒を妻つまを妾の花見かな
   其角
  ミノ
しさを朝起不食花盛
   千川

在郷て見らるゝ花のもとりかな
   土芳

   華下に酒をすゝむ彼樂天が七老尚窗の會たうとく
   覺て

此中の一老は誰そ花の友
   荊口

えり杭に成や芦間の桃の花
   洒堂

桃の花見るや三つ葉のひたしもの
   岱水

川越の流れて見するやなき哉
   露川
  筑前
枝々にひかれてくらす柳哉
   沙明

山吹やたかえて落る花の水
   半殘
  ミノ
膝組て出るや蕗の芽つくつくし
   文鳥

振あくる鍬のひかりや春の野ら
   杉風

山の芋ほられて寒き蛙かな
   猿雖

咲立て柴のならぬや躑躅山
   丈艸

うくひすや啼とも梅の口さはり
   野坡

鶯のひろみに啼や桐の枝
   土芳

黄鳥や岩のとかりは冬のまゝ
   朱拙

   閑 居

朝暮にせゝる火燵や春のたし
   丈艸

神鳴や一むら雨の寒かへり
   去來

   此句は長崎より聞え侍る

   夏之部

菜たね幹(カラ)焚や野風のほとゝきす
   丈艸

みねこすか尻聲はねて郭公
   野坡

ほとゝきす只有明の狐落
   其角

ほとゝきす待とる梅の茂り哉
   曾良

   春徳寺にあそひて
  長崎
時鳥笹のそよきや聲のあと
   卯七

留守皃に灯を消ころや郭公
   配刀

   宇佐にて二句

すきとせぬ北の殘りやほとゝきす
   野紅

目のくるゝ道もありけり時鳥
   寂芝
  加州
ほとゝきす二聲きりて二番草
   句空
  
この比や人も情出す郭公
   智月

   色の濱にて

卯の花の浪こそかゝれいろの濱
   支考

田の水に生出て凉しかきつはた
   卓袋

   奈良の邊にあそひける時

銀屏に葵の花や社家の庭
   野坡

五月雨の名をけかしたる日照哉
   正秀
  三州
五月雨やまた一しきり猫の戀
   白雪

痩影やうつる五月の雨たまり
   杉風

凉しさや寢てから通る町の音
   使帆

見に廻る瓜田や鷄の諷ひ比
   浪化

村はみな若代になりて田うへかな
   野坡

   秋之部

   薗木にて小姫のまたらふしといへるをうたふを聞
   

月影に裙を染たよ浦の秋
   去來

   長崎田上にて

名月や鏡にのする里の家
   野坡

   泉州岸和田にとまりて

瀬戸かけて平家に似たる月夜哉
   如行

ねんころに隣はひかれ星の留守
   野坡
  ミノ
星合や小川の中のつたひ石
   斜嶺
  筑前
七夕や明そこなふて今朝の雨
   助然

   五老井弄菊

菊の香や食にも茶にも井戸一つ
   許六

ねんころも若やくきくの日のいわひ
   乙州

   行脚のころ

旅ころもこゝは鶉に鵙の聲
   朱拙

   文のはしに聞ゆる

尻斗てられて立や秋の鹿
   野坡
  ミノ
深爪に風のさはるや今朝の秋
   木因
  伊勢
朝霧や廊下をのほる人の聲
   凉菟

桐の葉にむされて晝は秋も來す
   野坡

   冬之部
  筑後
一時は休むしくれや中戻り
   佐越

   久留米より田代にあそひて

足癖になるやしくれの里めくり
   野坡

此雪に何かなとかく坐禪かよ
   惟然

しまき來る雪のくろみや雪の間
   丈艸

初雪やねちれて終に西おろし
   野坡
  嵯峨
初雪や地の上かるき駒の足
   野明

何草の花か冬野に殘る菊
   杉風

紅葉葉をちらしかけてや殘る菊
   北枝

   三州にて

冬の日や矢矧堤のつくつくし
   句空

   紫白をたつねて

茶の花にたくり着けり夜の道
   佐越

田の水の有たけ氷るあしたかな
   凡兆

摺鉢の音も師走の雪氣かな
   智月

通り衆の繩手折行寒哉
   千川

布子着て淋しき皃や神おくり
   去來

武陵の野坡我本に旅寢せられつれつれの日居月諸互に云捨たるをたゝに古ふさん本意なさに雄州のホ句とも取あはせて櫻人の手にわたすものならし

   癸未二月
   野紅

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