加舎白雄
『文くるま』
延享3年(1746年)7月、白井鳥酔は松阪を訪れ、呉扇の世話で一葉庵に入る。 明和6年(1769年)4月4日、鳥酔は69歳で没。 明和8年(1771年)秋、白雄は古慊を伴って松阪を訪れ、鳥酔の遺跡一葉庵に入る。 明和9年(1772年)2月、『文くるま』(白雄編)。竹雨舘呉扇序。涵月楼滄波跋。春興句集。 |
杉の木や今春たてる神路やま | しら尾坊 |
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枝高く神のはつ鶏うたひけり | 古慊 |
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一葉庵初会 | 鳥酔翁 |
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梅が香に春さだまりぬ庵の窓 |
かく先師の遺章を壁にたれつゝをのをのこれにつぐ。 |
朝開ひまなく雪のしたゝり | しら尾 |
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春興 |
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寐過さじあまりにふかき | 呉扇 |
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うめひと木ひと木づゝあり谷の寮 | 滄波 |
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梅咲てものあたらしや杉の箸 | しら尾 |
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鶯 |
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榛の木にうぐひす啼や真昼中 | しら尾 |
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わかな野や立出てみれば春の空 | 如思 |
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ふりし世の瓦を出る若菜哉 | 呉扇 |
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さりやとてどちらむかふぞ朧月 | 古慊 |
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梅さくや笘屋のくれの人出入 | 梅輦 |
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文通 四季混雑 |
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雨そゝぐ花屋の門の柳かな | 江戸 | 門瑟 |
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火とぼしの袖もかざゝず春の雨 | 秋瓜 |
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礒際を家鴨のあゆむ春日かな | 柴居 |
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卜居吟 |
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朝顔やかりそめながら花のぬし | 尺五 |
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芦の芽をふみわけて啼蛙かな | 敲氷 |
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朧月川には鳥の声もせず | 京 | 蝶夢 |
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まことらしき木ずゑも見ゆる小春哉 | 諸九 |
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はつ秋やひとり起する小僧ども | 文下 |
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鴬や棹を寐させるわたし守 | 二日坊 |
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鼻あぶる火鉢はひまぞ梅の花 | 坐秋 |
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山岨や栞さびしきかれ野かな | 伊賀 | 桐雨 |
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水鳥やわかれて通す蕪ひとつ | 武蔵 | 書橋 |
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やゝあつて鷹のたちけりぬくめ鳥 | 平居 |
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水鳥やうき木にねぐら定まらず | 文郷 |
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暮る迄傘に風なし春の雨 | 魚生 |
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来て見ればたしかなものや藤の花 | 柳几 |
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掌に塩辛寒しむめの花 | 信濃 | 柴雨 |
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蓮咲て乞食のめしのしらげ哉 | 鳥奴 |
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碓の音は隣かふゆの月 | 鳥瀾 |
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わか竹や木挽が小家の薄ぐもり | 相模 | 鳥秋 |
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むらむらと深山桜にのぼり哉 | 尾張 | 蝶羅 |
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うぐひすの跡もありげに初音哉 | 加賀 | 見風 |
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きじ啼て山は朝寐のわかれかな | 尼 | 素園 |
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浅川や田螺ふまえた啼烏 | 仏仙 |
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冬三月門さす寺の落葉かな | 播磨 | 山李 |
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かや葺や板屋のこだま初しぐれ | 安芸 | 風律 |
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松かさの落てひさしき氷かな | 雨什 |
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昼中の日に丸々と柳かな | 上総 | 雨林 |
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鶯にあるじあるじの静なり | 木の女 |
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蝙蝠の遊ぶ貴船の鳥居かな | 下総 | 弄船 |
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すこやかに松風うごく枯野哉 | 百井 |
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蓮の香や明行池にこぼれもの | 烏朝 |
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冬に似た山の端もあり桜ばな | みちのく | 也寥 |
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夜あらしや藪をちからに梅の花 | 烏黒 |
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しら壁に添ふて故(胡)蝶の行衛哉 | 信濃 | 其明 |
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まくら迄新茶になりて郭公 | 鶏山 |
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梅が香のたちもどるべく薫けり | 大梁 |
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朧夜やさだめ兼たる桔槹 | 下総 | 兎石 |
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鉢たゝき傘持添し夜はいかに | 信濃 | 雨石 |
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朧夜鷺追たてゝ遊びけり | 巨計 |
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木曾にて |
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水音にふけて寐覚の夜寒かな | 普成 |
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おなじ田に田螺の声も夜半哉 | 春江 |
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雪の夜や鉄炮みがく兄おとゝ | 信濃 | 麦二 |
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海苔粥の香もなつかしや冬ごもり | 三机 |
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めりめりと亀うく春の氷かな | 雲帯 |
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春の雨炭に鋸(のこぎり)いればやな | 如毛 |
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夜をこめて桶屋のたゝく師走哉 | 左十 |
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きさらぎやもの喰そめて啼蛙 | 百卉 |
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四時 |
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雪解や雨を催す昼さがり | 百明 |
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きじ啼や朝日のわたる西近江 | 烏明 |
爰に菴あり。一葉庵と呼ぶ、これ也。烏翁延享のはじめ長途の遊袋をときてあるじしたまふ。其折にふれし名なりとぞ。 |