文 学


『春夏秋冬』(春之部)(夏之部)(秋之部)(冬之部)

『春夏秋冬』(碧梧桐虚 子 共編)

明治35年(1902年)5月6日、『春夏秋冬』(夏之部)刊。

   時 候

夏の夜の厠に行けば明けにけり
   子 規

短夜や上野の山は明けて居る
   子 規

短夜の明けて論語を読む子かな
   同

短夜や灯を消しに来る宿の者
   虚 子

風無くて暑き宵なり蚊帳の中   青 々

   人 事

つゝじ多き田舎の寺や花御堂
   子 規

灯のさして菖蒲かたよる湯舟かな
   鳴 雪

矢車に朝風強き幟かな   鳴 雪

兀山や鉱夫の家の鯉幟   虚 子

我高く立てんとすなる幟かな
   碧梧桐

薬玉やものつたへ来る女の童   碧梧桐

闇中に山ぞ峙つ鵜川かな   碧梧桐

涼み舟川下遠く流れけり
   子 規

文机に顔押しつけて昼寝かな
   子 規

温泉に入るや昼寝さめたる顔ばかり   虚 子

愕然として昼寝さめたる一人かな   碧梧桐

和歌に痩せ俳句に痩せぬ夏男
   子 規

人妻の茅の輪を抜けて戻りけり   青 々

羅をひくや天女の天の風   鳴 雪

蚊遣火の煙遮る団扇かな   虚 子

古畳団扇に虫をおさへけり
   子 規

鮒鮓や瀬田の夕照三井の鐘
   子 規

   天 文

五月雨大井の橋はなかりけり
   子 規

五月雨や上野の山も見あきたり
   子 規

五月雨に郵便遅し山の宿
   虚 子

夕立や蛙の面に三粒程
   子 規

江の島や薫風魚の新らしき
   子 規

雲の峰水なき川を渡りけり
   子 規

夕風や崩れてしまふ雲の峰
   同

   地 理

夏山を出て善光寺平かな
   子 規

夏山を上り下りの七湯かな
   同

清水ある家の施薬や健胃散   鳴 雪

温泉を出でゝ人嗽ぐ清水かな
   虚 子

目洗へば目明かに清水かな
   同

   動 物

鮎のをらぬ上総の国や鰌汁
   子 規

もらひ来る茶碗の中の金魚かな   鳴 雪

五月雨や畳に上る青蛙
   子 規

我宿は椎の木深く蚊の多き
   子 規

蠅打つてしばらく安し四畳半
   子 規

着物干す上は蝉鳴く一の谷
   子 規

孑孑や須磨の宿屋の手水蜂
   子 規

   植 物

漢方や柑子花咲く門構
   漱 石

てらてらと百日紅の旱かな
   子 規

夏木立幻住庵はなかりけり
   子 規

牡丹剪つて二日の酔のさめにけり
   子 規

我庭にはじめて咲ける牡丹かな
   同

かいま見ん茨咲く宿の隠し妻
   子 規

雨霽れてしばらく茨の匂ひかな
   子 規

満園の緑や薔薇二三輪
   子 規

薔薇の香の紛々として眠られず
   同

石の上に薔薇花散る雨重し
   虚 子

薔薇剪つて短き詩をぞ作りける
   同

百姓の年々つくる罌粟の花
   子 規

半日の嵐に折るゝ葵かな
   子 規

紫陽花や赤に化けたる雨上り
   子 規

紫陽花や昼寝さめたる庭の面し   虚 子

撫子や高野の道の地蔵堂
   碧梧桐

昼顔の花に乾くや通り雨
   子 規

夏草にまじりて早き桔梗かな
   子 規

乳鉢に紅すりつぶすいちごかな   碧梧桐

麦の風美濃路に馬を雇ひけり
   子 規

麦の秋匈奴逼ると聞えたり   碧梧桐

麻刈りて鳥海山に雲もなし
   子 規

(秋之部)

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