旅のあれこれ文 学


『金葉和歌集』

『後拾遺和歌集』の後、第5番目の勅撰集。全10巻。

金葉和歌集第一

   春部

   院北面にて橋上藤花といふ事をよめる
大夫典侍
色かへぬ松によそへてあづまぢの常盤の橋にかゝる藤波

金葉和歌集第三

   秋部

   師賢朝臣の梅津に人々まかりて、田家ノ秋風と
   いへることをよめる
大納言経信
返し夕されば門田の稲葉を(お)とづれてあしのまろやに秋風ぞふく

   萩をよめる
大宰大弐長実
しらすげの真野の萩原つゆながら折りつる袖ぞ人なとがめそ

   堀川院御時、御前にて各題を探りて歌つか
   うまつりけるに、薄をとりてつかまつれる
源俊頼朝臣
うずら鳴く真野の入江のはまかぜに尾花なみよる秋のゆふぐれ

金葉和歌集第四

   冬部

   関路千鳥といへることをよめる
源兼昌
淡路島かよふちどりのなくこゑにいく夜ねざめぬ須磨の関守

金葉和歌集第八

   恋部 下

   公任卿家にて、紅葉、天の橋立、恋と三つの
   題を人々によませけるに、遅くまかりて人々
   みな書くほどになりければ、三つの題を一つ
   によめる歌
藤原範永朝臣
恋ひわたる人に見せばや松の葉のしたもみぢする天の橋立

   人のもとにて、女房の長き髪をうち出だして
   見せければよめる
藤原顕綱朝臣
人しれず思ふ心をかなへなんかみあらはれて見えぬとならば

   堀河院御時の艶書合(けさうぶみあはせ)によめる
中納言俊忠
人しれぬ思ひありその浦風に波のよるこそ言はまほしけれ

   返し
一宮紀伊
音に聞く高師の浦のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ

金葉和歌集第九

   雑部 上

   大峰にて思ひがけず桜の花を見てよめる
僧正行尊
もろともにあはれと思へ山ざくら花よりほかに知る人もなし

   隆家卿太宰帥にふたゝびなりて、のちのたび
   香椎社に參りたりけるに、神主ことのもとと
   杉の葉をとりて帥の冠(かうぶ)りに挿すとてよめる
神主大膳武忠
ちはやぶる香椎の宮の杉の葉をふたゝびかざすわが君ぞきみ

   宇治前太政大臣布引の滝見にまかりける
    供にまかりてよめる
大納言経信
白雲とよそに見つればあしひきの山もとどろに落つる激(たぎ)つ瀬

読人不知
天の川これや流れのすゑならむ空よりおつる布引の滝

   和泉式部保昌に具して丹後国に侍りける頃都
   に歌合侍けるに、小式部内侍歌よみにとられ
   て侍けるを、定頼卿局のかたに詣で来て、歌
   はいかゞせさせ給、丹後へ人はつかはしてけ
   んや、使詣で来ずや、いかに心もとなくおぼ
   すらん、などたはぶれて立ちけるを引きとゞ
   めてよめる
小式部内侍
大江山いくのの道のとを(ほ)ければふみもまだみず天の橋立

金葉和歌集第十

   雑部 下

   範国朝臣に具して伊予国にまかりたりけるに、
   正月より三四月までいかにも雨の降らざりけ
   れば、苗代もえせで騒ぎければ、よろづに祈
   りけれど叶はで堪えがたかりければ、守、能
   因を歌よみて一宮に参らせて祈れ、と申しけ
   れば参りてよめる
能因法師
天の川苗代水にせきくだせあま下ります神ならば神

    神感ありて大雨降りて、三日三夜をやまざるよし家の集に見え
    たり

   補遺歌

   百首歌の中に子日(ねのひ)の心をよめる
大蔵卿匡房
春霞立ちかくせども姫小松ひくまの野べに我は来にけり

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