河東碧梧桐

『碧梧桐句集』(大須賀乙字選)


大正5年(1916年)2月5日、刊行。

   

春 浅 
春浅き水を渉るや鷺一つ

西門の浅き春なり天王寺

夏近し 
夏近き犬の病もおそろしき

   道山沿になりて足下平館海峡を見る

霞   
風立てば霞の奥も波白し

春の水 
構へたる並松もあり春の水

椿   
赤い椿白い椿と落ちにけり

山椿高々とある峠かな

躑 躅 
躑躅山茶店出したる村の者

岩を割く樹もある宮居躑躅かな

   

   立山頂上

薫 風 
雪を渡りて又薫風の草花踏む

昼 寐 
愕然として昼寐さめたる一人かな

鵜 飼 
羽たゝきや縄に釣られし鵜のたけり

闇中に山ぞ峙つ鵜川かな

   戸隱奥社即時

若 葉 
飯綱より雲飛ぶ橡の若葉かな

河 骨 
河骨も絵図にかきけり干満寺

   

   雲巌寺

冷 か 
ひやひやと積木が上に海見ゆる

冷やかに十境三井の名所かな

秋 風 
秋風や道に這ひ出るいもの蔓

果知らずの記のあとを来ぬ秋の風

露   
八十神の御裳裾川や露時雨

水菊の花や慈覺の露の降る

紅 葉 
紅葉摺うつや高雄の這入口

   最上川仙人沢

檜山と峙して満山紅葉かな

   本合海即景

鍬形の流れに星座紅葉かな

   弥五郎阪を越ゆ

栗   
阪を下りて左右に藪あり栗落つる

   水戸好文亭

芙 蓉 
沓の跡芙蓉の下に印すらん

菊   
菊の日を雪に忘れずの温泉となりぬ

   熱鹽温泉即景

芒   
遊園に囲ひし山の芒かな

曼珠沙華 
木曾を出て伊吹日和や曼珠沙華

須磨寺や松が根に咲く曼珠沙華

   勿来關趾

女郎花 
休らへば手折りもぞする女郎花

松の外女郎花咲く山にして

   雜

   古口といふ子規子がむさき宿と記せし所なり

宿帳に大字落々と記す秋

   

立 冬 
出羽人も知らぬ山見ゆ今朝の冬

小 春
 品川の海静かなる小春かな

山中の積木に休む小春かな

時 雨 
山門に時雨の傘を立てかけし

   酒田本間氏別墅

木もなくてしぐるゝをかし外廓

   野辺地海岸即景

雪   
潮汚れせし雪黄なる埠頭場かな

門構へ小城下ながら足袋屋かな

   中尊寺

霜   
苔青き踏むあたりにも霜柱

   羽黒山にて

冬 構 
冬構の中に鳥居の裸かな

落 葉 
落葉掃いて文庫の訴訟安堵かな

   羽黒山南谷にて

朴落葉俳諧の一舎残らまし

  新年

元 日 
元日や寺にはひれば物淋し

元日の袴脱ぎ捨て遊びけり

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