九 晴 与二野逸一到二金町一記 |
『文化句帖』(文化3年9月) |
九月九日、空寒からず熱からず、すゝむ足おのづから軽く、心の霧も晴るゝ心ちして先小梅堤にかゝる。刈れる小田有、いまだ刈らざる有。作らぬ菊も折しり顔にさきて、さすがに暮秋のおぼぶきを残す。 |
同行もおなじ優婆塞にて八十の叟なれば、物のわきまへも一かたならず。秋の草木のあはれをもたゞにや見過すべき。我は常々行かふ道にしあれど、けふは格別の風情を添ふ |
午刻ばかりに金町に至る。爰の祭りは必ことざま(異様)てぶりもやあらんと、ひさしくより心にかけて、漸(やうやう)ことし見る日を得るはけふ也けりと、老ほこりにほこり来ぬるに、さはなくて世間にありふるゝ操狂言といふものにぞありける。二人は興ざめて、ふたゝび見るべくもあらず。只松の木陰によりて、痩脛の疲れをさする。 |
秋の日の袖に傾けば、かへる期のせかれて、もと来し道をいそぐ。 |
日短かは蜻蛉の身にも有にけり |
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又人にかけ抜れけり秋の暮 |
灯のとぼる家とぼらざる家のあちこち見ゆる比(ころ)、庵にかへる。 |
『文化三−八年句日記写』 |
十一日 雨 午刻ヨリ晴 |
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行々しどこが葛西の行留り |
『文化句帖』(文化元年4月) |
二日 晴 鶯にかさい訛はなかりけり
『文化句帖』(文化4年正月) |
葛西辞(ことば) |
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せなみせへ作兵衛店(だな)の梅だんべへ |